てぃーだブログ › Rude Girl › 2017年07月

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Posted by TI-DA at

2017年07月11日

にのりに降り

その声は既に弱々しく細くなり、伸ばした指は震えていた。
?クシナダヒメ、離れよ!こやつを退治するっ!」
?スサノオさまっ!?何をなさいます。」
「こやつは、人を食らう化け物ぞ!」
響くスサノオの声に呼応するかのように、ついにオロチは人型を捨てた。
天地を揺るがす轟音と共に、山が揺らぐほどの迫力で、クシナダヒメの愛しい男は、愛する姫に見せたことの無かった本性を晒した。
毒に苦しむ大蛇は、8つの頭と8本の尾を持つ正当な龍族の眷属だったが、クシナダヒメの父母はすっかりスサノオの言を信じ込んでいた。
巨大な大蛇の目は毒のせいで、熟れた鬼灯(ほおづき)のようにただれて真っ赤になっていた。
のたうつ大波のような背中には、苔や木が生え、大地でこすれた腹には赤黒い血がにじみ、8つの谷、8つの峰にまたがるほどの大きさで太陽すら見えなくなった。
毒に苦しむオロチの八つの首は、それぞれに水を求め大地を走り、ついに八つの山々のふもとに酒の入った甕を見つけた。
渇いた喉を潤すように、ごくり、ごくりと喉を鳴らしオロチは強い酒を飲んだ。
それが身体に回り、動きを鈍くさせることなど考えもせず、渇きを癒すために今はひたすらあおった。
毒のせいで起きた喉の激しい渇きが、大量の水分を欲していた。
怒りと悲しみの咆哮が大地に轟き、天は掻き曇り心配した龍神は雨を降資金流向らせたが、今や青息吐息のオロチはのたうつばかりである。
強い酒が、正常な感覚さえも狂わせていた。
「オロチーーー!!」
声を限りに自分を呼ぶ、愛しい娘が必死で小高い山に駆け上がり、自分に近づこうとしていた。
オロチの爛れた目に映るクシナダヒメは、その手を伸ばし触れようとしていた。
恋人の名を叫ぶクシナダヒメに、「そなたは我のものだ!」???と言い放ったスサノオは、神の息を吹きかけその姿を、ベンガラ漆の紅い櫛(クシ)に変えるとそっと自分の髪に挿した。
毒と酒のせいで、今やオロチは緩慢にしか動けない。
その様子を見て、長剣、十束剣(とつかのつるぎ)を携えて、瀕死のオロチについにスサノオはひらりと刃を向けた。
その顔に張り付くのは、醜く嫉妬に狂う歪んだ笑みだ。
『うぬ。???神々に名を連ねるものが???何という卑怯???』
呻くようにオロチがスサノオを呪う。
『高天原の神々よ、我の願いを聞き届けよ!』
『父王よ、我の敬う海の神よ。』
『我は、この上は、スサノオに討ち果たされ十束剣(とつかのつるぎ)の錆となる。』
『この怒りを、思い知るがいい!』
最後に渾身の力を振るって、オロチは憎いスサノオに一矢報いんと尾を立ち上げた。
これほどまでの、仕打ちを神々が許すはずは無いと思った。
だが、結局、ひとなぎで山々を崩すほどの力を持っている鞭のようにしなった尾を、オロチはただ大地に思い切り叩きつけるしかなかった。
スサノオの髪には、愛しい娘が櫛に姿を変えられ、挿してあったのだ。
クシナダヒメを守るため、オロチはわが身をさらした。
『我の???クシナダを盾に使うとは???』
手も出せず光を失い閉じようとする大蛇の目から、思わず零れた血涙があた注ぐと、瞬時にスサノオの術は解け、クシナダヒメは人の姿に戻り髪から滑り落ちた。
クシナダは恋人の下へとスサノオを振り切って駆け寄った。
?オロチ!オロチ???いやっ、死んではいやっ。」
クシナダヒメは、重傷を負い恐ろしい形相で断末魔の苦しみたうち喘ぐ、山のように巨大な大蛇に触れた。
その姿を見ても、クシナダヒメは怯えなかった。
「聞こえる?オロチ。わたくしはあなたがどんな姿でも二世を誓おうと思ったの。わたくしはあなたがどんな姿になっても、きっと見つけることが出来る。本当よ???オロチ。」
「クシナダ???」  


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