ったよりほん

Rude Girl

2015年07月14日 17:19

から運転席へ乗り込む。そして、カーナビに手早く目的地を設定すると、エンジンをかけてゆっくりと発車させた。

 タプン、タプン——。
 下方から、コンクリートに打ち付けられる水音雪纖瘦が聞こえる。眼前には細波立った黒い海面が広がり、どこからか運ばれた小枝の塊や、捨てられた空のペットボトル、ビニル袋などを不規則に揺らしていた。ところどころ油も浮かんでいるようだ。そのせいか潮風には僅かに異臭が混じり、視覚的にも嗅覚的にも、さわやかな海のイメージとはほど遠い。
「確かに海だけど……」
「あしたの予定を全部キャンセル出来たら、きれいな海へ連れて行ってあげられたんだけどね」
 悠人は肩をすくめて苦笑する。
 しかし、澪とてリゾート地のような海を期待していたわけではない。思の少し酷かっただけのことだ。薄汚れた白い柵に両腕を置き、そこに顔をのせて、鈍重な冬雪纖瘦の海をじっと眺める。不意に強まった冷たい潮風が頬を掠め、長い黒髪をさらりと吹き流した。
「海の匂いを嗅いでいるとね、私、お母さまのことを思い出すの。研究所が海の近くだからかな。健康診断で研究所に行くときくらいしか、お母さまとゆっくり過ごせなかったし……」
 そう言うと、目を伏せて薄く微笑む。
 研究に明け暮れている母親との思い出は、ほとんどが研究所に関わるものだった。けれど、それを悲しいと思ったことはない。優秀な科学者である母親は、澪にとって誇りであり、憧れてさえいたからだ。なのに、その研究所で不正が行われていたなんて——。
「澪、大丈夫か?」
 心配そうに声を掛けた悠人に、澪は精一杯の笑顔を見せた。
「平気です。私には師匠雪纖瘦や遥がついているんですから。師匠には、橘家のことで面倒ばかりかけて